第二章

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「どうしたの?光。物凄く険しい顔してるけど…」 「ん?ああ…」 あの後、しばらくねばって部屋にいてみたものの、蝶は全く光を相手にしなかった。なので仕方なく、光は職務室へと戻って来たのだ。そこには光の幼馴染みで恋人の橘月夜(タチバナツキヨ)が一人で仕事をしていた。彼女もリアリストの一員で以前から情報管理を担当している。 そんな彼女の様子をぼんやりと見ながら考え事をしていて今に至る。 「さっき蝶の所に行って来たんだって?」 「んー…」 月夜の問いかけに光は曖昧に答えた。先程から蝶のことしか頭になく、他のことに意識が中々向かないのだ。 そのまま悶々としていたら、急に頭に軽い痛みを感じた。光が顔を上げると、そこには明らかに不愉快そうな月夜が冊子を持ちながら立っている。 「な、何すんだよっ?」 「光がぼーっとしてるからでしょ?…また蝶のこと考えてたの?」 月夜の声のトーンが僅かに下がる。いささか不安げな響きもあった。光は小さく頷くと、周りを見回してから声を潜めつつ口を開く。 「なんか…最近蝶疲れてるんじゃないかって…心配なんだよ…」 光の言葉に月夜は納得したように頷いた。光がリアリストの中で誰よりも蝶のことを考えているのは皆が知っている。蝶がそれを有難いと思っているかどうかは不明だが、少なくとも一番の信頼を得ているのは光だった。 月夜が少し考えあぐねながら光に答える。 「んー…確かに前よりは多いけど…毎日、とかじゃないし…そこまでとは思わないかなぁ」 「そうか……俺の考え過ぎかな…」 月夜の返事に光は項垂れて首を傾げる。その様子を見た月夜が、光の顔を覗き込んだ。 「光はちょっと過保護だよ、蝶のことになると。まぁ、事情は分かるし、そういう所が光らしくていいと思うけどね」 「そうか……そうかもな…。ごめん月夜、ありがとな」 光は顔を上げると少し吹っ切れたような笑みを浮かべた。月夜もそれに返すように微笑む。 光は、自分にとって月夜はなくてはならない存在だと改めて思った。彼女のおかげで自分の心の平穏が保たれている。 蝶にはそんな相手はいない。周りに人がいても、基本的にいつも独りでいる彼は、その状態でいつまでもつのかと光の脳裏に微かに不安がよぎった。
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