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「執行は明日、深夜二時だ」
蝶がソファに深く腰掛け、細い足を組みながら事も無げに言った。
ソファの向かいのテーブルには用件に関する書類が置かれているが、蝶が目を通した様子もなく綺麗なままだ。
テーブルの横に立っていた玄人が微かに頭を下げる。
「了解致しました。サポートはどうなさいますか?」
「必要ない。俺一人で十分だ」
「承知致しました。では、私はこれで失礼します」
「ああ」
玄人が去った後、蝶はソファから移動してベットに思い切り倒れ込んだ。弾力のあるスプリングは軋む音をさせずに蝶の重みを吸収する。
コロリと転がって仰向けになると、片手を上に上げてじっと見つめた。
―――…また血で汚れるのか…。
そんな思いが、蝶の脳裏を掠める。
暗殺の前日や当日に、いつも思うこと。今までに殺した人数を振り返り、自分の罪の重さを再確認する。
強大な力を他のことに使わないようにするための戒めの儀式。
―――いつまで力に溺れずにいられるのか、と時折考える。
今の自分の精神状態ならば、そうなることはないと思われる。
何せ自分は誰よりも自分が嫌いなのだ。力に溺れる者は皆自分に酔っている者が大半だから、陥る可能性は低い。
だが、溺れたらどうなるのだろうか。
誰かが止めてくれるのだろうか。
止めようとしても止められない気がする。力の差があまりにも大きい。
ではどうするのだろう?
そもそも自分の祖先達で力に溺れて悲惨なことを起こしたかどうかを振り返ってみた。
そして―――
―――気付いた。
蝶の平均寿命が普通よりもずっと短いということに…―――
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