第二章

8/12
前へ
/26ページ
次へ
翌日。 普段通りに仕事を終えて、蝶は現場から離れる。 今回の任務は政財界での地位を利用して自分の懐を肥やしている奴を抹殺することだった。 おまけにそれが蝶に狙われる要因になるであろうことを自覚していたのか、無駄に警備員や防犯装置が多くて面倒だった。 しかし、それらは蝶相手では気休めにしかならず、あっさりと任務は達成されたのだが。 「明日の朝には大騒ぎか。それとも病死などと偽るか…」 大物になればなるほど、暗殺されたことを隠したがる。それ故に情報操作は常に行われて来た。 だが、隠しても民衆が疑問を抱くし、リアリストが不正をリークするのであまり意味のないものになる。後々のことを考えれば、素直に暗殺の事実を出すべきなのだ。 ただし、『蝶』の名は世間には出されない。噂としては流れても、公式的な報道なのでは『蝶』の名は非公開。そんなことをすれば、罪なはずの暗殺を肯定する様なことになりかねないからだ。 だが、皆知っている。蝶に暗殺された者は裁かれるべき者だったのだと。 だが、蝶はいつも思うのだ。 奪ってもいい命は本当はない。 どんなに罪深くても、他人を傷付けても、生きることは妨げてはいけない。 けれども、その存在のせいであまりにも多くの犠牲が出るのは避けなければならない。 人一人の命を尊重するか、はたまた大衆を守るのか。いつもこの問いのせめぎあいだ。 そして、先祖代々『蝶』はずっと後者を答えとして来た。 だから、『蝶』は誰かに依存することはあってはならないのだ。 もし依存し、その人自身や、その人の大事な人を殺さなければならなくなった時、理性で動けるか分からないから。
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

43人が本棚に入れています
本棚に追加