第二章

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「あ、ごめん。気に障ったなら謝るよ」 蝶の反応に遙は慌てて弁解する。あまりにも下手に出る遙に違和感を覚えながらもしばらく彼を観察していた。 「あ、僕、遙って言うんだ。君は?」 「え……リョウ…」 いきなり名前を聞かれて蝶は動揺する。『蝶』ということは言えないので思わず口をついて出たのは随分と聞いていなかった本名だった。しまったと思った時には時既に遅く。遙はしっかり頭にインプットしていた。 「リョウ君…ね。字は?」 「……そんなのどうでもいいだろ…」 「そうかな?字は大事だよ、意外とね。君なら…そうだな、『涼しい』って字で『涼』が似合いそうだ」 「……勝手に言ってろ…」 口ではそう言うものの、蝶は心中で動揺していた。 遙が言ったことは的を得ていたからだ。蝶の本名のファーストネームは遙が言った通り『涼』だった。しかし、そう呼ばれなくて久しい。 「ねぇ」 「……何だ…」 「こっち、来ない?」 蝶は遙の言葉にきょとんとする。蝶が黙ったままだったのを見て、遙は言葉を付け足した。 「あ、いや、ずっと見上げてると首が辛くてさ。降りてきてくれると有難いんだけど…」 「…あぁ」 そういうことか、と蝶は納得すると、トンと遙の目の前に降り立った。蝶が顔を上げると、遙は驚いた様子で彼を見つめていた。 「随分と…身軽なんだね…」 「…別に。それほどでもない」 本当に大したことはないと思っている様子で蝶は答えた。しかし、蝶がいた所から地面まで、5、6メートルはある。普通なら飛び降りることすら怖い高さだ。 「何かやってるの?曲芸、とか」 「……別に」 『曲芸』という言葉に微かにだが嫌そうに反応したのを見て、遙は違うんだなと悟る。 ―――それにしても 本当に美しい、と遙は思った。 遠目に見た時も思ったが、近くで見ると更にその思いが増幅する。 男には、見えない。 声を聞けば確かに男とも取れる。しかし、少し声の低めの女性と言われれば、皆素直に認めるだろう。むしろ、男と言ったほうが疑問を持たれそうだ。
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