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「今日もいい天気だなぁ」
青年がソファに腰掛けながら窓の外を眺めてそう呟いた。腰まであるであろう金の長い髪を真ん中で緩くくり、前の方に流している。歳は20代くらいの美青年だ。シックな全体的に気品を漂わせる服で身を包み、ゆったりとくつろぐその姿はどこかの貴族のようにさえ思える。
「またくつろいでたの?」
突然部屋の大扉を開いて女性が足早に入って来た。艶やかな黒髪で、前髪をきっちりと揃え、細身の膝まである黒いドレスを見に纏っている。なにやら苛立っている様子でツカツカと青年に近付くと、目の前で腰に手を当てて相手を見下ろすようにしながら口を開いた。
「あなたはもう少し仕事しなさいよ!それでも皇子なの!?」
「あはは」
彼女が言った通り、この青年、南遙(ミナミハルカ)は貴族どころかここ南朱(ナンシュ)国の皇子である。しかし、側室の子供で有り、また本人が皇位継承争いに巻き込まれたくないという理由で正式に皇子としては発表されていない。
それでも知略や情勢を読む能力に長けているため、しばしば皇帝の側近として働き、皇帝から厚く信頼されている。
「だって、今は特に僕が関わるような事は起きてないじゃないか」
「だからって、税金で暮らしているに等しいんだからだらだらしない!」
「はいはい。紫音は相変わらず手厳しいなぁ」
遙はクスクスと小さく笑みを溢してから彼女を見上げる。紫音と呼ばれた女性は、本名は枢紫音(クルルシオン)。幼い頃から遙の目付け役として育ち、遙の唯一の理解者である。二人の仲を噂する者がたまにいるが、紫音には婚約者が既に存在しており、お互い幼馴染み以上の関係ではない。
「あ、忘れてたわ、あなたに報告があるのよ」
紫音がはっと思い出したような表情を浮かべ微かに顔を曇らせる。
「ふぅん…何かな?いい事ではないみたいだね」
「まぁ…あまりね。昨夜また蝶が現れたそうよ」
「蝶か……誰が殺されたのかな?」
「以前から国のブラックリストにも載っていた男らしいわ。詳しいことはまだ…」
「まぁ、細かいことはいいかな。蝶が始末したのなら、この世界にとって有害だったのだろう」
「…そうね」
遙の言葉に、紫音が小さく頷く。
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