第一章

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『蝶』というのはリアリストという裏社会の番人と呼ばれている組織の、唯一の暗殺者である。 依頼成功率は100%。どんな状況であってもなんなく切り抜け、確実にターゲットを抹殺すると言われている。蝶に狙われた者は、どんな手を使っても逃げることは出来ないという。 その正体は男ということ以外は全く分かっていない。それは、リアリストでもその正体を知っているのは上層部の限られた者だけであり、またその他で見た者は皆すでにこの世にいないからだ。彼は自分が始末した証に置く蝶の銀細工以外は全く痕跡を残さない。 しかし、ただの暗殺者ではない。依頼され、金を出されれば全てを受けるわけではなく、この世界において悪影響を及ぼす者、例えば法律で裁けないような犯罪者など、を暗殺する件しか受けないのだ。実際、蝶がいるおかげか、昔に比べ目に見えて犯罪者は激減している。 もちろんそれでも完全に犯罪者がいなくなるわけではない。そんな輩を裁くのがリアリストという機関で、そこで徹底的に前歴など洗い、決定を下し、その決定が死刑だった場合に蝶が動くのである。 だから蝶に殺されたということは、悪事を働き過ぎたという証拠なのだ。 「ねぇ紫音、蝶ってどんな人なんだろうね?」 突然、遙は紫音に対して真面目な顔をして問いかけた。紫音はふい打ちだったのか、少し戸惑ってから悩みつつ答える。 「え?さぁ……でも蝶って呼ばれてるくらいだから、可憐…なのかしら?あ、でも男性なんだっけ…」 「男で可憐とか、美しいとかっていうのはあまりないよね…カモフラージュなのかもしれないね、コードネームがさ」 「ああ、実は全く蝶という単語にそぐわない人物ってこともあるわね」 紫音が納得したように頷く。遙は窓を開けると澄みきった青空を眺めながらポツリと呟いた。 「蝶か……会ってみたいな…」 その呟きは急に強くなった風によって掻き消された。        
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