第一章

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「いえ、流風様に本部までいらして頂くのは、ただでさえお忙しいのに大変なことですから」 玄人の言うとおり、リアリストの本部は東西南北の国々の中心にあるため、各国から遠い位置にある。それ故にそれぞれの国に部署が設けられている。 そして、普段玄人は本部で活動している。だから流風はわざわざ、と言ったのだ。 『蝶』の関連事項は組織の中でも最重要機密のために、本部に勤めている者でも上層部の極一部しか知らない。 「立ち話もなんですから…まぁ、どうぞ掛けて下さい」 玄人が向かいのソファを手で示すと、流風は素直にソファに腰かける。玄人も流風に続いて腰を降ろした。光はドアの近くに立っている。 先程案内をしてくれた女性が紅茶を運んで来て、それぞれのカップに注ぐと会釈をして出て行った。 光が一度外に出て、周りを確認してからドアを閉めて二人に目配せをする。玄人がそれを見て頷くと、ゆっくりと口を開いた。 「早速ですが流風様、依頼がありました。それで、こちらが資料です」 玄人は脇に置いていた鞄を開けると、厚めの書類が入った封筒を取り出すと、テーブルの上に置き、流風の方に差し出す。流風はそれを受け取ると、中身を取り出しじっくりと目を通して行く。流風が読んでいる間、玄人は淹れたての紅茶にゆっくりと口を付けた。 しばらく沈黙が流れていたが、パサリという書類をテーブルに置く音が沈黙を破った。玄人がカップを置き、流風に視線をやる。 「……いかがでしたか?」 「依頼内容は把握しました。第一選定に通しても構わない内容でしょう」 流風の言葉に玄人は微かに口元を上げる。 「ふむ……やはりそうですか。分かりました、では第一選定の手配を致します。日取りが決まり次第お伝え致しますね」 そう言うと、玄人は書類を鞄の中に再びしまい込み、しっかりと鍵をかけるとソファから腰を浮かせ立ち上がった。 「では、僕は本部に戻りますので。査定有難うございました。失礼します」 玄人は深々と流風に頭を下げると、足早にその場を後にした。
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