「花神輿」

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  バイトが休みの午後。 蛇骨がソファに寝そべり、テレビを眺めていると、インターホンが鳴った。   宅配かな。 睡骨か霧骨のだったら開けて見てやろう。   蛇骨はスキップしながらドアを勢いよく開けた。 「こんにちは」 立っていたのはひょろりとした爺さんだった。 蛇骨は拍子抜けした。 「なんか用?」 「自治会ですけど、天満宮の祭の寄付お願いします」 「ん?」 何をどうすればいいのかさっぱり分からない。 咄嗟に煉骨を呼んだ。 「兄貴~、誰か来てる」 「…おれにか?」 「さぁ…何か祭だって」 煉骨は蛇骨に説明を求めるのは無駄とばかり、応対に出ることにした。   暫くして、煉骨が部屋に戻ると、蛇骨が勝手にベッドに寝転がっていた。 「降りろ、てめぇ」 「ちぇ~ケチ~何だったの?」 渋々ベッドから降りたが、今度はフロアラグにぺたり座りこむ。 叱られても邪険にされても、部屋に居座る気のようだ。   懲りない奴め。   「五月にある天満宮の祭の為に寄付を募ってたんだ。おら、邪魔だ、出てけ」 「祭かぁ行きてぇなぁ~」 「屋台が出るようなもんじゃねぇぞ」 煉骨は殊更、抑揚のない声でぴしゃりと言った。 蛇骨がえっ?と目を丸くする。 「それに」 さらに酷薄に笑い、言い足してやった。 「おまえには花神輿を担いでくれないか、とさ」 真ん丸に見開いていた蛇骨の愛くるしい目が憤激に吊り上がった。   「誰が女どもに混じってんなもん担ぐかっつーの!!兄貴何て答えたんだよ!!」 「ああ。その時期は多分生理で無理ですよ、と言ってやったから女どもに混じる心配はないぞ。感謝しろ」   蛇骨はショックのあまり、顔を真っ赤に、唇を震わせ絶句した。 煉骨は久々になんとも清々しい心地を味わった。   但し、その夜、蛇骨に泣きつかれた蛮骨から、手痛いセッキョーを食らったのは言うまでもない。
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