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ブラットフォートは笑っていた。
左手だけで相手する、なんて最初に聞いた時は水月ですら何かの冗談だと思った。
いくらブラットフォートが強くても、水月だって決して弱い訳ではない。
刀の扱いだって、かなり熟練してきているし、剣だけでの相手なら純にも敗けはしない。
なのに、左手一本。
素手だけだというのにどうして一太刀たりとも入らないのか。
水月はペットボトルに口を付けながら考える。
キンキンに冷えた水が、運動で火照った体にとても心地好い。
そして水月は、そのまま床に崩れ落ちた。
蓋をしていないペットボトルから、水がとめどなく零れ落ちて行く。
荒い息をしながら、全身は汗でベタベタだった。
「……っはぁ、……はぁ。
……っ」
水月の刀、玄霧も直ぐ傍に落ちている。
「ちっ、たった数分でこの様かよ。
こりゃ休憩どころの騒ぎじゃねえな。
休息だな休息。
――しゃあねぇ……」
水月は悪態をつくブラットフォートの顔を見た。
一瞬。
一瞬見た次には、景色がいつの間にか反転していた。
――見覚えのある壁に。
次に感じたのは浮遊感。
自分の体が重力に引っ張られ、落ちる感覚だった。
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