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10年近く前の誕生日の日、ヒデさんは私をデートに誘ってくれた。
どんな素敵なお店に連れて行ってくれるのか楽しみで仕方なくて、私はめいいっぱいお洒落をして行った。
そうしたら彼は山登りスタイルで待ち合わせ場所に来た。
しかも、平を連れて。
―平はヒデさんと前の妻との間の子供で、私はそれを承知で当時彼と付き合っていた―
平とは以前から面識があった。
私を見つけると嬉しそうに手を振ってくれた。
履き慣れないヒールの靴で来たもんだから、私はすぐへばってしまった。
そもそもこんな靴で山登りができる筈もない。
ほとんど低斜面な道のりだとしても。
『山を登るって言ってくれればよかったのに…』
愚痴を言っても仕方ないので、私は口には出さなかった。
ヒデさんはそんな私を見て、「仕方ないなぁ」と言い、おぶってくれた。
ヒデさんの背中は大きくて温かくて、何だか気持ちよかった。
「ほら、着いたよ」
爽やかな風が抜ける山の中腹。
イートインスペースも設けられた休憩所で、ヒデさんは私を降ろした。
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