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「……わぁ、綺麗!!」
視界に飛び込んできたのは、たくさんの桜の花だった。
中腹からは町一体を見下ろせる。
その町を覆い尽くすかのように、たくさんの桜が咲き誇っていた。
私は山が張り出し、崖のようになっている部分へと駆け寄った。
胸近くまである柵に寄りかかる。
山の斜面を越えた向こうはずっと桜でいっぱいだ。
丁度山と平行線な形で川が眺められる。
その川沿いに、これでもかこれでもか、と桜が植えられているのだ。
強い風が吹く。煽られて、花弁が宙を舞った。
その様にまた目を奪われる。
こんな穴場スポットがあったなんて。
私の不機嫌は、あっという間に吹き飛んでしまった。
「河津桜だよ。いつだかに言ってただろ?
俺が桜と一緒に誕生日迎えられて羨ましい、って」
ヒデさんは、丁度ソメイヨシノが満開を迎える、4月生まれだ。
私は桜の花が好きだから、ヒデさんの桜と一緒の誕生日が何だか羨ましくって、そう漏らしたのだ。
「河津桜はソメイヨシノより開花が早いからな」
「知らなかった…」
ととと、と平が私の横に走ってくる。
町を見下ろし、それから目を輝かせて私を見上げた。
「綺麗だね!」
「うん、綺麗だね」
私は平ににっこりと笑いかけた。
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