38人が本棚に入れています
本棚に追加
◆
私は目を覚ました。
頬が何だか生ぬるい。触れるとそれは水―涙だった。
背中にあたる感触が固く冷たい。床で寝ていたみたいだ。
私は身を起こした。薄暗い部屋にいるようで、視界がさえない。
目の前には幾本ものローソクが立っている。
「――目が覚めたか?」
その声に振り返ると、至近距離に巨大な人物が立っていた。
縦にも横にも大きい男性だ。頭には黒い布を巻きつけている。
まるでミイラみたいだ。どんな顔をしているのかが全く分からない。
そこでやっと私の意識がはっきりし、同時に記憶が蘇ってきた。
そうだ、私は桜を見て――
確か私は自宅の前にいた筈だ。
なのに、なんでこんな知らない場所にいるの?
さっきの桜は一体なんだったの?
この目の前の男は誰?何で布を巻いているの?
頭に様々な疑問が、まるで気泡のように浮かんでは消える。
人知を超えた出来事に、私の脳は追いつけなかった。
今鉢合わせしている現状全てが、不気味で、気持ち悪い。
「い、一体誰なのあなたは!?ここはどこ!?」
私の発した声は震えていた。怖い。
後ずさりしたかったのだが、腰がぬけているようで身動きがとれなかった。
私の言葉を受けて、その巨大な男は悲しい顔をした――ような気がした。
実際は包帯のせいで全く表情が読み取れなかったのだけれど。
最初のコメントを投稿しよう!