プロローグ

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  我が家の定番朝ご飯、はちみつフレンチトーストをぺろりと平らげると、平と千恵美は一緒に学校へと向かった。 平は中学生・千恵美は小学生、と通っている学校は違うのだけれど、二人は毎朝仲良く家を後にしている。 二人が出発した後、私もテーブルについてトーストをかじった。 うん、我ながら上出来。私は喉をうならせた。 これを我が家の定番メニューに組み込んだのはヒデさんだ。 私は隣のリビングを覗きこんだ。そこにはヒデさんの写真が飾ってある。 ヒデさんは登山家だった。 結構名が知れていて、登山に関する書籍も何冊か発行していた。 そんな彼から、ある日連絡がぷつりと来なくなった。 正直最初は心配していなかった。 登山家という生業上、音信不通になることなんて間々あったからだ。 でもその時だけは違かった。 あれから四年、ヒデさんはずっと帰ってこない。 ヒデさんが最後に行った山での捜索も、随分前に打ち切られてしまった。 死体が見つからないので、“失踪“という宙ぶらりんな状況のまま、今に至っている。 私は食後のコーヒーを一口飲み、ふぅっと息を吐いた。 涙何リットル分も泣いた。 悲しみはとうの昔に枯れてしまっている。  
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