プロローグ

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  王のその言葉から少しの間をおき、呪文が一斉に止んだ。 ローソクの円内にいた者たちが皆静かに移動し、円内に人が誰もいなくなる。 部屋は静寂に包まれた。 「準備が整いました」 「よし、始めろ」 「…しかし王、どうされるのですか、ナ」 「その名前を出すな」 低い王の声が即座にローブの男の声を遮る。 だが、その王の瞳は、言葉を発した者を見据えていなかった。 包帯の奥底から、ずっと虚空一点を見やっている。 ローブを被った男は、「申し訳ありませんでした」と深々と頭を下げ退いた。 「…今度こそ始めろ」 その言葉を合図に、ふっと音もなくローソクの火が消えた。 そして同時に、ローソクの火とは別の光が円状に現れる。 大きな円の中に更に少し小さな円が描かれている。二重丸に近い。 その細い間には、小さなアルファベットのような文字らしきものが踊っている。 残りの部分には、幾何学的な模様が連ねられていた。 俗にいう“魔法陣“だ。 その大きな魔法陣は、最初はうす暗く光るだけだったが、その後まばゆいまでの光を発するようになった。 部屋が端から端まで照らされる。だが、周りの者は微動だにしない。 目を貫くような光の洪水の中、王は口の端を持ち上げた。 「早く会いたいぞ、我が妻よ」  
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