追憶

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出店の賑やかな呼び子の声が響いてくる。 賑やかさから生まれる熱気と、その間から流れ込んでくるひんやりした風が、頬を触り心地よい。 しかし出店を照らす明かりとは真逆の、心理状態に私は陥っていた。   「どうしようかしら」   近所で行われている、比較的賑わう縁日に私は足を運んでいた。 ふらり、と足が向かった訳では無かったわ。 そうね、多分陽気な雰囲気がそうさせたの。  それなのに……だめだわ、せっかくお気に入りの赤紫色の浴衣を着ても、結局はこうなってしまうのね。   「鼻緒が……切れちゃった」   いつもそう、私って不幸な目に合うのよ。 だめなの、気をつけていても。 石段でもつまずくし、何もないところでもこける、おじさんにおまけで貰った金魚は落としちゃう。   極めつけはこれ。 鼻緒は切れるし、勢い余って膝は擦っちゃう。   「痛っ!あぁーあ血まで出てきちゃった」   裾をそっとずらして膝を確認すると、じんわりと血がにじんでいた。 ほんと、最悪。   鼻緒は切れて、浴衣は汚れて、最後には膝を怪我。   「歩いて帰るのもなぁ」  
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