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場の空気は最悪…
険悪で不穏な空気が漂っていた。
敏樹は樹一郎さんを恨んでいた。
その理由は 敏樹が今まで放って置かれたのに呼び戻されて…
兄である佳樹さんが死んだから…葛西家を継ぐ人間がいなくなる。
それで敏樹に葛西家を継ぐように言ってきた…勝手な事を言われ…
今までの寂しさで胸がいっぱいになって怒りが溢れてしまった。
だから 敏樹は恨んでいたんだ。
おれは…敏樹の家の事情を知らなかった。今まで訊かなかったし…
敏樹も話さなかったから…敢えて訊く必要もないと思ったんだ。
いつも笑顔で明るかった敏樹が…自分の中に秘めていた暗黒面…
それが遂に爆発してしまった。
敏樹は耐えられなかったんだ…
自分だって本当は後継者になりたかった…だけど 樹一郎さんは…
敏樹より兄である佳樹さんを選び佳樹さんを教育する為に敏樹を…
両親のいない敏樹を施設に預け…今まで放置しておきながら…
佳樹さんが死んだ今…呼び戻して家を継げと勝手な事を言う――…
敏樹が樹一郎さんを恨む理由…
それには…十分な理由があった。
「…お爺様…」
落ち着いた敏樹は口を開いた。
そして 樹一郎さんを見上げ――
「オレより…適任な人がいるじゃありませんか…オレの兄貴…
治樹がいるじゃありませんか…
それとも…何か呼べない理由でもあるんですか?ねぇ…お爺様…
オレ…知ってるんですよ?
お爺様が治樹兄さんをいなかった事にしたって…知ってます…
だから継がせないんですか?
いない人間だから…
継がせないんでしょうかね…?」
「敏樹…! 口を慎め…ッ!!」
『治樹』の名前を口にする敏樹は今まで見せた事のない表情…
意地の悪い笑顔で言っていた。
まさに…敏樹の裏側を見た様だ。
「…トシくん…なんか怖い…」
そんな敏樹の様子に奈未は脅えて震えていた。香澄さんが支える。
敏樹の発言で再び険悪な空気に…
「治樹兄さんを追い出した理由は実に下らなかったよねぇ…?
お爺様が大切にしていた…
そう…まさに今 お爺様が傍らに置いている曰くつきの刀――…
『鴉丸』に少し触れたから…
そんな理由でアンタは…
自分の後継者を追い出した…!」
「この『鴉丸』は葛西家の財産…この刀で葛西家は救われてきた!
それを下らないだと…?
いつから お前はワシに――…」
樹一郎さんが立ち上がると…
すぐに胸を押さえて倒れた…――
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