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倒れた樹一郎さんに 藤吉さんや英作さんや菊絵さんが駆け寄る。
その様子を敏樹は笑顔で見て…
ただ鼻で笑って目を閉じていた。
「――敏樹…?何してんだ?!
お前…樹一郎さんを助けろよ!」
「――嫌だね…
こんなジジイ…死ねばいいんだ」
敏樹は苦しむ樹一郎さんを冷淡に見下ろし…笑みを浮かべていた。
おれは信じられなかった。
あの敏樹が…いつも 笑顔で明るかった敏樹の冷酷な眼を見て…
おれの背筋に寒気が走った――…
「――くそ…っ!!」
おれは樹一郎さんに駆け寄った。
「――大丈夫ですか?!
樹一郎さん!大丈夫ですか?!」
「樹一郎様!!」
「しっかりして下さい…!」
使用人の皆さんも 樹一郎さんを心配している。しかし敏樹は――
その場から動こうとしなかった。
「――動かさないで下さい!」
そこに現れたのは意外な人物――
「――雅臣?!」
「雅臣さん?! どうして…」
「詳しい話は後で…
とにかく動かさないで下さい!」
雅臣さんは樹一郎さんに近付き…心臓の辺りに耳を当てて聴いた。
そして 首筋に指を当てて…脈を計って 今度は手首を押さえた。
樹一郎さんは 苦しそうだった。
「脈拍と心拍数が低下してます。
恐らく発作だと思いますが…
仕方ない…部屋に運びましょう」
藤吉さんと英作さんが雅臣さんと樹一郎さんを大広間の隣にある…
樹一郎さんの自室に運び込んだ。
「菊絵さん!布団を敷いて…!」
英作さんは辛そうに指示をした。
「あっ…はいっ!💦ただいま…」
菊絵さんは 樹一郎さんの自室に向かい布団を敷きに行った。
大広間には おれたちだけ――…
「…ちっ…」
敏樹は明らかに舌打ちをした。
「おい…敏樹…
今 舌打ちしやがっただろ!
それは…あんまりじゃねぇか!」
「アイツだけは…許せません。
なんて言われても…オレは…
お爺様を許す気も…
葛西家を継ぐ気もありません!」
敏樹は その場から走り去った。
「――ちくしょう…っ!」
「敏樹…――」
おれたちは走る敏樹の背中をただ見ている事しか出来なかった。
敏樹を引き止めたり追い掛けようとする人間も いなかった。
この時から敏樹は孤立し始めた。
おれには敏樹が分からなかった。
分からなくなり始めていた――…
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