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葛西家 ③
―17:12 葛西家本屋敷
しばらくして樹一郎さんの容態が安定した様で彼の自室に入った。
菊絵さんに支えられ樹一郎さんは上体だけを起き上がらせた。
そして樹一郎さんは周りを見渡し敏樹の姿を探していたようだ。
いないと分かり溜め息を吐いた。
「敏樹には分からんか…
ワシの思いも憂いも何も――…」
「樹一郎様…」
樹一郎さんは辛そうにしていた。
「樹一郎さん…
葛西家って何ですか?
一体…どんな家系なんですか?」
「客人には関係ない…と言いたい所だが…手段は選べぬか――…
分かった。客人に話をしよう…」
樹一郎さんは体制を立て直した。
しっかり 話せるようになった。
敏樹が内に抱えていた問題…
葛西家とは どんな家系なのか…
確か敏樹は…「人殺しの家系」と言っていた。人殺しの家系…か。
敏樹に そこまで言わせる家…
葛西家の正体を聞き出そう――…
「葛西家とは室町時代より続く…武器防具職人の家系であった。
しかし…それは世を忍ぶ仮の姿…
我々 葛西家は忍の一家であり…
様々な情報を…収集…管理…提供するのが我々の役目だった。
様々な情報を収集する為に…武器防具職人として生活をしていた。
なぜ武器防具職人かと言うと…」
「武器や防具の注文件数…
火縄銃や刀…鎧の数で戦の規模を見定めて城主に情報を流す為…
さらに武器防具職人だから修理も依頼される。という事は――…
武器の汚れ具合…傷痕の数や傷の深さ…そして刀の切味を見る。
それにより 戦の状況や…両軍の優劣を判断する材料にする。
もう何度も聴いたから憶えたよ」
そこに敏樹が帰って来た。
敏樹は樹一郎さんの傍らに座り…いつもと同じ様な笑顔を見せた。
明るく朗らかな笑顔だった…――
「あの『鴉丸』は…葛西家の初代当主が初めて造った刀だった。
葛西家が…代々 大切にしてきた家宝だった。お爺様も葛西家も…
あの『鴉丸』に取り憑かれてる」
「あれは…我々の財産…
お前には あの刀の素晴らしさが分からないと言うのか?!
敏樹…お前は葛西家の後継――」
「――継がねぇって…
何度 言ったら分かんだよ!!」
敏樹は何かを振り降ろした。
それは――…『鴉丸』だった。
「――敏樹?!」
「――バカッ!やめろ…!!」
敏樹は伊能先生に押さえられた。
畳に真っ直ぐ刀が刺さっていた。
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