葛西家 ③

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伊能先生は敏樹を落ち着かせ床に座らせた。刀は引き抜き… 藤吉さんが大広間に戻した…―― 敏樹は樹一郎さんを睨んでいる。 ただ死を待つだけの樹一郎さんに刀を向けるなんて…今の敏樹は… おれの知っている敏樹じゃない。 みんなが 知っている…誰にでも優しくて明るい敏樹じゃ…ない。 さっきの敏樹の目は…樹一郎さんへの殺意や憎悪に溢れていた。 あの目は『人殺し』の目だ――… 「戦が終わり…平和になった世の中から忍は姿を消し始めた。 我々も姿を消し世の中へ溶け入り数百年の年月が過ぎた現代… 我々 葛西家は…かつての規模を取り戻し莫大な情報を得た。 それは様々な未解決事件の記録…政治家や議員の汚職…さらに… 警察庁が隠し持つ裏帳簿など… 我々…葛西家の財産は情報…今で言うデータと『鴉丸』である。 それが葛西家の正体なのです…」 「それって…」 「警察を動かせる…って事か?」 「警察は葛西家の言いなり… 政治家も震えて頭を下げる。 それが葛西家なんですよ――…」 敏樹は冷たく言い放った。 おれたちは とんでもない家に…来てしまったんだ…と後悔した。 …だけど…それは後の祭だった。 「葛西家は不正を働く人間を追い詰めて罪を裁く役目もある。 追い詰められた人間は自然に自ら死の道を選ぶ…だから人殺し… 葛西家は人殺しの家系なんだ…」 だから 人殺しの家系って言っていたのか…事情を知らなかった。 知らなかった…で済まないだろうけど…実際に知らなかった…―― それを知っていたのなら…敏樹の力になれたのかな…と後悔した。 敏樹が内側に抱える必要はない。 「……忍を辞めた葛西家の一部は武士に転身…追剥や虐殺をした。 そんな抜け忍の一派を葛西家11代当主が一族の目の前で殺害… 見せしめとして永遠に記憶に残る後味の悪い公開処刑を行った。 それも合わせて人殺しなんだよ」 おれたちは固唾を飲み込んだ。 まるで 喉を鉛の玉が流れていくような嫌な感じがしていた…―― 敏樹に目をやると…笑っていた。 敏樹が葛西家の後を継ぎたくない理由は良く分かった。だけど… それでも敏樹の態度は異常だ。 何が敏樹を変えてしまったのか… この時…おれは分からなかった。 .
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