葛西家 ①

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藤吉さんと呼ばれた男性は笑顔で本屋敷の玄関から出て来た。 そして 敏樹の所へ歩いて来た。 藤吉さんは敏樹を頭の先から爪先まで見回して敏樹の手を取った。 泣きそうな笑顔で 手を握った。 「よくいらっしゃいました… 敏樹様…使用人一同お待ち致しておりました。ご友人の方々も… 遠い所をわざわざ来て頂いて… 大変 申し訳ありません――…」 藤吉さんは深々と頭を下げた。 「いえ…💦 そんな…」 「藤吉さん…お爺様は…?」 何だか…敏樹の雰囲気が変わったような気がした。いつもと違う… 真面目な表情でいる敏樹の横顔を…おれは ただ見ているだけ… 藤吉さんも…少し困った表情だ。 「樹一郎様なら… ご自分の部屋で療養中で… 菊絵以外は入れるな…と 仰っておりましたので…お会いには… 暫くすればいらっしゃるかと…」 「そっか…病状は?」 「……はっきり言って…いいとは言えない状態で ございます。 …むしろ…そう遠くない未来には別れの朝が来る事と存じます。 本当なら…こんな話は聞かせたくありませんでしたが…敏樹様… ご覚悟だけは お願い致します」 「…そっか…そうなんだ…――」 敏樹は寂しそうに笑んでいた。 佳樹さんが亡くなって…敏樹には両親もいないから肉親は祖父… 樹一郎さんだけだったのに…その樹一郎さんが亡くなるのなら… 敏樹の家族は いなくなる…―― 「仕方ない…か」 敏樹は目を閉じて空を仰いだ。 敏樹の中には 何かの決意があるようだ。どんな決意か知らない。 けど…敏樹が決めた事なら… おれは…きっと 何も言わない。 「英作…敏樹様たちを客室へ…」 「はい」 藤吉さんは 本屋敷の中へ急いで戻って行った。少し慌てていた。 おれたちは英作さんの後に着いて行き…本屋敷の後ろにある旅館… ……のように見える屋敷に来た。 「こちらは離れ屋敷です。 お客様方には こちらに宿泊して頂きます。ちなみに屋敷なので… 全室 襖でございます。なので… 部屋に鍵はかけられません。 その点は ご理解して下さい…」 その時 離れから更に離れた所に小さな屋敷を…おれは見つけた。 それを英作さんに尋ねると――… 「あぁ…アレは葛西家に関係する特別な方々の為の屋敷です。 あそこは庭を横切らなければ… あの屋敷へ行く事は出来ません」 確かに あの屋敷は離れていた。 .
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