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桜の花びらが、ぴくりとも動かず、静かに涙を流す泰明に、雪のように降り積もる。
それは泰明の裸体を覆い隠して、先程までの情事の生々しさまで隠してくれそうだった。
しかし、その場に友雅の姿はなく、泰明は自分の不甲斐なさに苛立ち、辱めた友雅に憎悪を感じ、更に涙を流した。
「っ…!」
ひどい痛みを脚の間に感じ、恐る恐る手を痛む箇所に触れさせた泰明は、スッと手を目の前に持って行く。
「やはりな…」
泰明の手には、べったりと鮮やかな赤い液体が付着している。
生臭く、生者の匂いと暖かさを感じて、泰明はゆっくりと目を閉じた。
「ん……」
壁の隙間と御簾越しに漏れる光で、朝が来たのだと感じる。
泰明はバッと起き上がり、辺りを見回し、ホッと安堵の息をついた。
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