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ぷくぷくと小さな泡がいくつも浮き上がる。
泰明は水の中に倒れて、気を失ってしまっていた。
耐え難い屈辱を受けた姿が、現実の姿であったのだから、当然かもしれない。
薄れゆく意識の中で、泰明は愛しいけれど、憎くてたまらない、彼を思い出していた。
憎いはずなのに、優しくて柔らかい笑顔しか思い出せない…。
このまま死ぬのなら、こういう思い出の方が良いのかもしれない。
「まったく…。初夏とはいえ、水に潜って涼を取るのは感心しないね」
深緑の髪をなびかせ、涼しげな白を基調とした衣服を纏ったあでやかな貴公子が、水の中に倒れている泰明を抱き上げ、木陰へと運んだのだった。
「……ここは?」
「お目覚めかな?あんな大胆な沐浴はまだ早いと思うけれどね」
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