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さわさわと葉桜が、風に葉をざわめかせる。
その木陰に溶け込むように、泰明は桜の大樹に寄りかかり、ゆっくり目を閉じ、柔らかな風と、葉の隙間を縫って差し込む陽光を感じていた。
清浄(しょうじょう)な気が巡っている今は、師の言葉を理解する事が出来そうだと、泰明は口元に笑みを浮かべた。
さわさわ…さわさわ…。
風に揺れる葉のざわめきも心地よく心に染み込んでいく…。
「五行が満ちた…。私は…このまま…朽ち果てるのみ…」
それでいいと思った。
何を今更、抗う必要があるのだろう。
死ぬ事も消える事も、少しも怖くはない。
けれど……。
あの人の記憶から、自分が薄れて消えてしまう……それが一番辛い事だった。
想いも言葉も交わさなくていい。
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