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蛇骨が最近ぼやいている。
バイト先の常連で、先日、新作ケーキの試食会に蛇骨を誘いやがったあの野郎が店に姿を見せないらしい。
『いくら開店準備に追われてるからって珈琲の一杯くらい飲みに来れると思わねぇ?!』
そんなこと訊かれたって知るか。
大体、蛇骨があの野郎と呼び捨てしあう仲になっていようとは。
そんなことで蛇骨はともかく、相手の方に懸念があり、蛇骨から奴の店のプレ・オープンに行こうと請われた時、おれは二つ返事で了承したのだった。
そして、その日。
おれは、前に来た時はグレー一色だった外壁を白とクリームがかった黄色に塗り変えた店を訪れた。
店内も外壁と同じ二色で統一されており、窓からの採光も良く、とても明るい。
蛇骨はさっきからウィンドウケースの前を行ったり来たりして、どのケーキにするか決めかねている。
「大兄貴~選べねぇよ~💧」
こっちに振り向いて情けない顔をした。
その顔がまるで小さな子供がべそをかいてるようで、可笑しくて、思わず笑ってしまった。
迷うのはケーキだけにしてくれりゃいいんだがな。
飛天とか言うあの野郎が厨房から出て来た。
笑顔で蛇骨に色々ケーキの説明をしている。
ちょっとばかり誇らしげなのがむかつく。
渦巻く嵐の中に進んで飛び込んでしまったような、どうにもならない想いに、蛮骨は暗澹たる気分だった。
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