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「蛇骨」
「なに?煉骨の兄貴」
朝食の後片付けの最中のことだった。
「おまえ今日バイト休みだろう。天気もいいし、居間のカーテンを洗っておけ」
「えぇ~?!」
「洗濯係だろうが。やっておけよ、この頃消臭剤で追い付かなくなったからな」
煉骨に言われ、蛇骨は思わず鼻をくんくんさせる。
確かに食べ物の匂いやら、様々な生活臭がした。
「やっぱそぅか~なんか服とか鞄に匂いが付くなぁと気になってたんだよな」
「今日の天気逃すとまた何時洗えるか分からねぇぞ」
蛇骨は大きな溜息を吐いて、肩を落とした。
恨めしげにテラスに目を向けて、
「太陽のばか」
小さく呟いた。
蛇骨が飛天の店に着いたのは、予定の時刻を2時間余り過ぎてからだった。
「ごめんな~煉骨の兄貴に野暮用頼まれてよ」
「…休みの日に来なくていいんだぜ」
白いコックコートに身を包み、手元を忙しく動かしながら、飛天は答えた。
「なんだよぅ、いつもいい加減にしか飯食ってねぇってマスターから聞いて昼飯作って来たのに」
「そいつは有難うよ。何作って来たって?」
「おにぎり」
「だけ?」
「おかかとか鮭とか、梅も入れた。米食うと力出るんだって大兄貴言ってたから」
「…へぇ」
蛇骨は飛天の働く姿を眺めた。
簡潔な返事に終始し、無駄口叩く間はないと言っているような横顔。
じっと見ていたが、やがて立ち上がった。
「お昼の弁当、2階の冷蔵庫に入れとくな」
「ああ。休みにすまなかったな」
振り向いた蛇骨が見たのは、変わらずせっせと作業台に向かう飛天の姿だった。
「おれ火曜にバイト入れよっかなぁ」
「無休で働くのかよ」
「うーん…シフト変えてもらって火曜は飛天の店手伝おうかなって」
蛮骨は眉をひそめて、蛇骨の方に寝返りをうった。
湯上がりの良い香りが蛇骨から漂う。
「あいつらがバイト雇える余裕あるとは思えねぇがな」
「だよな。ま、しょうがねぇっか……」
だがその言葉とは裏腹に、蛇骨はまだ思い悩む様子で、蛮骨の胸元に凭れた。
(蛇骨、一体何考えてやがんだ…)
問い質してもいい筈なのに、何故か口に出せない。
寝息を立て始めた蛇骨を抱きしめながら、蛮骨は天井を睨み続けた。
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