8.「新しい橋」

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  そりゃ今日び、学ランがケーキ屋に入ってくるなど変わったことじゃねぇ。 おれが戸惑っているのは、そうじゃなくて。   「結構流行ってんじゃねーか」 「…駅前の大通りだからな。 で?今日は客のつもりか? 違うなら帰れよ、相手する暇ねぇから」 「焙じ茶プリン」 「それなら蛇骨が買ってったぜ、二つな」 奴の眉がぴくり、と動いたのを、おれは見逃さなかった。 奴は憮然として言い換えた。 「黒胡麻のムース。食ってくよ」 「まいどあり。ドリンク奢り」 「…どうも」 ちょっとびっくりした顔は、年相応に見えた。   珈琲をテーブルに出すなり、奴は話を切り出した。 どうやら今日の来店はそれが目的らしかった。 「あんたとつけたい話があってな。そっちの都合に合わせっから」 「蛇骨のことかよ」 「まぁな。憶測で苛々するのは性分じゃねぇんだ」 分かる気がして、思わず笑った。 「水曜日の夕方空けとく。定休だから。ここでいいだろ」 まだ話も何もついてねぇのに、何となくおれの気分は晴れやかだった。 もしかすると、今こいつもそうなのかもしれない。 今までで一番気に障らねぇ笑顔だったから。     蛮骨が帰宅すると、煉骨が蛇骨に説教をたれていた。 どうした、と訊くと、煉骨は全く…と溜息混じりに説明してきた。 「最近どうも同じケーキ店のゴミが多いんで蛇骨を問い詰めたら、こいつ毎日買い食いしてやがったんだ」 蛇骨は膨れっ面でそっぽを向いている。 「あぁ、それならおれが頼んだんだ」 「えっ?!大兄貴が?!いゃ、またそうやって甘やかして」 蛮骨は、きょとん、と見上げる蛇骨の髪をくしゃくしゃに撫ぜて、目を吊り上げている煉骨に言い渡した。   「ダチの店なんだ。食費に迷惑かけねぇんなら、いいよな煉骨。飯にしようぜ」
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