9.「SIMPATICO」

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  「おれが来たっつーのになんで入れねーんだよ!!💢」 「飛天あんちゃんに誰も入れるなって言われてんだよ!しつこいぞ、おめぇっ」 「へー見上げた弟じゃねぇか、満天ちゃんよ。ったく、おめぇじゃ埒あかねぇっ飛天に取り次ぎな!!」 「いくらおめぇでもだめなもんはだめ!!」   「ほんっと粘るなぁ」 ぎゃいぎゃいと響く店先の押し問答を2階の窓からそっと窺っていた飛天は、半ば感心して笑った。 「あの馬鹿、他人の店先で騒ぎやがって…」 蛮骨は怒りに目を据わらせている。 いつもなら蛇骨の無作法を頭のひとつでもひっぱたき、大人しくさせるのだが、今出ていくわけにいかない。 今日、自分がここに来ていることは蛇骨には内緒なのである。 「ま、満天に任せときな、ああ見えて頼りになるんだ」 「すまねぇな」 「でもお陰で何となく分かった気はするぜ」 飛天は窓から離れ、ソファに腰を下ろした。 何が、とも訊かず、蛮骨がじろり、と瞳だけでその姿を追う。 「蛇骨に手綱をつけるのは容易じゃねぇってことがな」 蛮骨はじっと飛天を注視した。 瞳が白く険呑な光を放っている。並のものなら萎縮してしまうところだ。 だが、なおも飛天は構わず続けた。 「あんたはそもそもつける気なんざないんだろう?」 ようやく、蛮骨が重く深い息を吐いた。 「ああ。時々ぶん殴ってやりてぇ時もある。だが、そんなことしたってあいつにはそれを理解する頭がねぇんだ。だから……おめぇはおれのもんだって言い聞かせ続けるしか…」   多分…この言葉を聞きたかったのだ、と飛天は思った。 それほどに、すとん、と胸に落ちてきた言葉だった。 あの子は、この先も誰にも心を置かず、ひらひらふらふらと振る舞うんだろう。 当然のように戻る処がありながら。   「それを酷だと思っちまったらそれまでだぜ、蛮骨」 蛮骨がはっと顔を上げた。 そこに懊悩の色はなかった。 「ふん…肝に命じとくぜ。油断ならねぇのがいるからな」 二人は顔を見合わせると、声を立てて笑った。
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