26人が本棚に入れています
本棚に追加
「おれが来たっつーのになんで入れねーんだよ!!💢」
「飛天あんちゃんに誰も入れるなって言われてんだよ!しつこいぞ、おめぇっ」
「へー見上げた弟じゃねぇか、満天ちゃんよ。ったく、おめぇじゃ埒あかねぇっ飛天に取り次ぎな!!」
「いくらおめぇでもだめなもんはだめ!!」
「ほんっと粘るなぁ」
ぎゃいぎゃいと響く店先の押し問答を2階の窓からそっと窺っていた飛天は、半ば感心して笑った。
「あの馬鹿、他人の店先で騒ぎやがって…」
蛮骨は怒りに目を据わらせている。
いつもなら蛇骨の無作法を頭のひとつでもひっぱたき、大人しくさせるのだが、今出ていくわけにいかない。
今日、自分がここに来ていることは蛇骨には内緒なのである。
「ま、満天に任せときな、ああ見えて頼りになるんだ」
「すまねぇな」
「でもお陰で何となく分かった気はするぜ」
飛天は窓から離れ、ソファに腰を下ろした。
何が、とも訊かず、蛮骨がじろり、と瞳だけでその姿を追う。
「蛇骨に手綱をつけるのは容易じゃねぇってことがな」
蛮骨はじっと飛天を注視した。
瞳が白く険呑な光を放っている。並のものなら萎縮してしまうところだ。
だが、なおも飛天は構わず続けた。
「あんたはそもそもつける気なんざないんだろう?」
ようやく、蛮骨が重く深い息を吐いた。
「ああ。時々ぶん殴ってやりてぇ時もある。だが、そんなことしたってあいつにはそれを理解する頭がねぇんだ。だから……おめぇはおれのもんだって言い聞かせ続けるしか…」
多分…この言葉を聞きたかったのだ、と飛天は思った。
それほどに、すとん、と胸に落ちてきた言葉だった。
あの子は、この先も誰にも心を置かず、ひらひらふらふらと振る舞うんだろう。
当然のように戻る処がありながら。
「それを酷だと思っちまったらそれまでだぜ、蛮骨」
蛮骨がはっと顔を上げた。
そこに懊悩の色はなかった。
「ふん…肝に命じとくぜ。油断ならねぇのがいるからな」
二人は顔を見合わせると、声を立てて笑った。
最初のコメントを投稿しよう!