1.「恋敵」

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  最近行きつけの店に新しくバイトが入った。   英国の田舎風のカフェにはちょっと雰囲気が合わない感じの子だ。 少々シャイらしく、店に何人か客がいると絶対厨房から出てこない。 おれが粘って一人になると、やっと水のおかわりを差しに出て来る。   背がすらっとしてて、エプロンの後ろ姿の小股の切れあがってるのが実に色っぽいんだ。   ここ何日か通って、おれは決めた。 「マスター、お先に失礼しまぁす」 あの子の声を合図に、おれは立ち上がった。   単車を押して裏口へ回ると、ちょうどあの子が出て来たところだった。 おれは当然偶然を装った。 「あれ、あんた…」 「今上がり?」 「まぁね」 くるり、と背を向けて歩き出した。 徒歩で通ってんのか…。 「乗りなよ」 「えっ?」 「いや、方向同じみたいだしよ」 「大した距離じゃねぇしいらねぇよ」 その蓮っ葉な態度でおれは意地になった。 「お軽くねぇんだ」 「変な人だね、あんた」 にこっと懐っこい笑顔を見せた。 「そうかよ。おれはただ…」 「あっ!」 「えっ?おいっ!」 話の途中で急にあの子が駆け出した。 その先におれよりちょっと小柄な男が立っていた。 見た瞬間、気に入らねぇと思った。 「出迎えてくれたの~😃💕」 甘えて飛び付いたのを見ちまったし。 「誰だ、あいつ」 「やだな、お店のお客さんだって」 「へぇ…」 ほんと気に入らねぇ目つきだ。 おれよりガキだろうに一人前に亭主面しやがって。 「じゃあね、お客さん。また来てくれよな」 「おぅ、またな」   そうだ。この子には勿体ねぇ。見てな、ガキ。 おれは笑顔で手を振り返すと、単車をふかして去った。   「なんだ、あれ」 「だから常連さんだって」 「あの余裕かました笑い方、むかつくぜ」 蛮骨の言葉に蛇骨は吹き出した。 「そういうの、同類嫌悪っつーんだよ」 蛮骨は苦虫を潰したような顔で、どこが、と吐き捨てる。   (強引なとことか、負けず嫌いな目つきとか、三つ編みがさ)   蛇骨は抱き寄せる蛮骨の腕の強さに微笑んだ。
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