14.「甘酸っぱい疼き」

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  蛇骨が浮かない顔をしている。 店に来た時からいつものような陽気さがなく、それどころか段々落ち込んでいってるようだ。 一昨日はあんなに苺、苺とうるさいくらい元気だったのに。   飛天は無言で、視線も虚ろな蛇骨の前に皿を出した。 「…きれい…ロールにしたんだ。色とか薔薇みてぇ…」 蛇骨の瞳に少し輝きが戻った。   ピンク色の生地は苺を粗潰ししたジュースを混ぜているのだろう、爽やかな甘みと果肉のつぶつぶした歯触りがある。 生地と一緒に巻かれている白とピンクのマーブル模様のクリームは酸味がアクセントに効いている。   一口、一口運ぶ毎に、蛇骨の頬が柔らかなピンクに染まっていった。 「甘酸っぱい…」 「美味いだろ」 「うん。真ん中のクリームんとこもほわほわしててすっげ美味ぇ。なんかヨーグルトみてえな味する」 「ご明答。マシュマロとヨーグルト。前にテレビで見たのアレンジしてみたんだ」 「へぇ…」   ほんと美味い。 ほんときれいだし。 こんなケーキを一人で食ってるなんて。   急に悲しくて寂しくて、フォークをくわえたまま、蛇骨は俯いた。   (あ~あ。あの野郎に塩送るみてえで気が進まねぇんだけどな)   飛天はしょんぼりと俯く姿を見てられなかった。 「残り持って帰れよ」 「えっいいのかよ?」 ふっと笑って、飛天は蛇骨の額を小突いた。 「たっ…何すんだよぅ」 「今日のうちに食えよ。食ってちゃんと仲直りしな」 蛇骨は間抜けなくらい、ほけっとした顔をした。 「なんで分かんだよ…?」 「おれは色々分かっちまうんだよ」   本当はかまかけてみたんだけどな。 あ~あ。   でも、早く笑顔に戻って欲しいのは本音で。 そんなべそかいて、への字な口じゃなくって。   「ありがとな…」 蛇骨の声はまだまだか細かったが、 「また作ってくれる?」 おねだりさんが戻っていた。   飛天はしょうがねぇなぁ、と内心自分に呆れつつ、安堵して笑った。
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