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「珍しいね、大兄貴が店に来てくれるなんて」
「まぁ一度は覗いとこうと思ってな。落ち着いた良い店じゃねぇか」
蛮骨は珈琲をすすり、店内をゆっくり見回す。
「女の客さえ来なきゃな~」
捨て台詞めいた言葉を残し、蛇骨は奥に消えた。
蛮骨は口の端に笑みをのぼらせた。
昨日のむかつく野郎は来てないみてぇだな。
似たような髪しやがって。
蛮骨は蛇骨のバイトが終わるのを待ち、真っ直ぐ連れ帰るつもりだった。
だが。
バイトを終えた蛇骨から驚くべきことを聞かされた。
「何だっておめぇがそいつの店に行かなきゃならねーんだよ!」
「だからマスターの知り合いんとこの新作ケーキ試食会に誘われただけだって。常連さんがそこの息子だなんて知らなかったんだもん」
蛮骨に反対されるなんて心外だとばかりに、蛇骨はそっぽを向いた。
「そぅかよ。なら、おれも行くぜ」
「えぇ?!でも」
「なんだ、おれが行っちゃ具合悪いのかよ?」
きつい眼差しを受けて、やっと蛇骨は気付いた。
大兄貴、意固地になってるんだ。
何も答えず蛮骨に飛び付いた。
「おっと!」
「大兄貴、一緒に来てよ。そんでいっぱいいっぱいケーキ食おうぜ!!」
ちょっとの間が空いて。
蛇骨は背中に回る力強い腕を感じた。
そんならしくもない大兄貴も大好き。
嬉しくて、更にぎゅうぅっと浅黒い首筋にしがみついた。
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