4.「予感」

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  「うぅわ~酒臭いっ」 おれの前に水を置くなり、蛇骨が鼻をつまんだ。 「いくら店が定休日でも飲み過ぎじゃねぇ?」 二日酔いの元凶から聞きたい言葉ではなかった。 おれはおしぼりを腫れた目に当てながら促した。 「いいから。珈琲。あと炭酸水な、蛇骨」 「はいはい」 きびきびと奥に引っ込んで行く姿を見送った。 昨日の今日で呼び捨てになるくらい近付きになれたんだからいいじゃねぇか…。 おれらしくもねぇ。引きずるなんてよ。   「はいっ珈琲、炭酸水」 「流石、暇してると出てくるのが早いな」 「…なんかあったのかよ?絡むなんて珍しいね」 細い眉をひそめて、おれの斜め横に椅子を持って来た。 おれは無意識に、僅かに椅子を引く。 「あの店、バーをやめてパティスリーにするんだって?おれ買いに行くね」 おれはじっと見つめた。 蛇骨の薄茶色の瞳を。 やっぱり可愛いと思った。 男と知った時は驚いたけど、今こうして見てても、おれの気持ちは勘違いしてた時と変わりないようだ。 「…でさぁ、おれってツイてるって思う時あんの」 「ツイてる?」   にこにこと話し続けるその先は聞いてはならないことだったかもしれない。 何故なら、それまでおれは、昨夜からあんな情けない想いをしていても、以前と変わらない距離で振る舞える自信だけはあったからだ。   「だってよぅ、飛天みてぇなイイ男が作る絶品ケーキ毎日食えるんだもん😃」   -え? 毎日食うつもりかよ? いゃ、じゃなくっておい!! 何言ったんだ、今?!   「おれポイントカード1号な、飛天😃」   …あのデコ十字野郎が目付け役でもなんでも構うか、といった態度だったのが解せる瞬間だった。   魔が付く性の奴だったんだ。   (間男だけはごめんなんだぜ、蛇骨…) おれは心の中で溜息を吐いた。
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