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何故か若い声。いつものおばあちゃんの少し掠れた声ではなかった。
「おばあちゃん、何か、若返った?」
俺は露骨にそう尋ねる。同時にどこかおかしい気がして来た。
「風邪を引いてるの。だからそう聞こえるのよ」
「そっか。風邪を引くと、声が若返るのか」
「そうなのよ」
んな訳ないだろ!
俺は内心でツッコミを入れ、ベットから少し離れて、観察した。するとベットの足元から何かがはみ出ていることに気付いた。
モロで動物の足だ。
灰色の毛に薄い桃の肉球が付き、指先には鋭そうの爪が抜き出ていた。
俺はごくりと生唾を飲み込む。
狼だな、うん。確実に、どこからどう見ても狼だ。
もうあの足が見えている時点で狼じゃないか。さぁ、どうしようか。
この小屋の近くの森には狼が出ると言われている。狼に遭遇したら、まず逃げろと親から忠告されている。
よし、逃げるか。
と、俺はベットに視線は向けたまま、退いて行った。……が、そこであることを思い出す。
おばあちゃんだ。
狼がおばあちゃんに化けているならおばあちゃんはどこにいる?
背筋も凍り付くように不安が俺の身を包んだ。
やばいやばい。おばあちゃんは、狼に――
最悪の事実が頭に過ぎる。
――喰われたかも。
くそっ、どうすればいいんだよ。おばあちゃんは喰われたのか? 今、俺の目の前にいる狼に喰われたのかよ。どうなんだよ。
先ほどまで恐怖が体を包んでいたが次第にそれが恐怖ではなく怒りに変わっていった。
まだ話を最後まで聞いてないのに、その後、二人はどうなるのか聞いてないのに……。
俺のおばあちゃんを喰いやがって!
……まだおばあちゃんが喰われたかどうかわからないだろう、というツッコミはしないでくれよ。
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