Romanの地平線

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  暗闇に瞬く小さな《焔》 無数に煌めく温かな《焔》 その中には――優しい物語、哀しい物語、美しい物語、醜い物語、数え切れない程の数多の記憶が存在している。 私達の仕事は、その物語の中から只一つ、ムシュウが生まれるに至る記憶を見つけ出すこと。そのために私達は意志を持ち、言葉を喋り、異なる地平を廻ることが出来る。    今日のぶんの物語を廻り終えた私は、ムシュウが待つ朝と夜の狭間に戻ろうとしていた。すると同じように反対方向から、オルがふわりと飛んでくる。 オルは私の姿を見つけると期待に満ちた眼差しでこちらを見つめてきた。    「――ヴィオレット、そっちはどう?」 「・・・駄目。今日もムシュウに相応しい物語は見つけられなかったわ」 私の答えを聞いて、オルタンスが私のそっくりの顔を泣きそうに歪ませる。 対して私は残念そうに笑うことしか出来ない。泣くのはオルの役目。笑うのは私の役目だから。   「泣かないでオルタンス。きっと明日、明日こそはムシュウの物語が見つかるわ」   気休めだとはわかっているけど、私は出来る限りの笑顔を作って今にも泣き出しそうなオルの身体をぎゅっと抱きしめる。
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