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当然、私達の身体には温もりなんかない。だから冷たい身体同士が触れ合うだけ。
――こういう時、私は密かにあることを考えてしまう。
今この作り物の身体がこうして動いているのは、ムシュウが私達に「廻る」ことを命令しているから。
だったら・・・もし私達がムシュウの物語を見つけてしまったら、私達はどうなってしまうのだろう、と。
「・・・ヴィオ?どうしたの?」
ぼんやりと自分の思考に沈んでいると、心配そうな顔のオルがそっと私の頬に触れた。その感触にはっと意識が戻って、急いで笑顔を作る。
「ううん。何でもないわオル。さあ、ムシュウのところに帰りましょう」
「ムシュウ、怒るかしら・・・」
「そんなことないわよ。きっといつもみたいに、お帰りって抱きしめてくれるわ」
そう。ムシュウの元に帰って、「今日も物語は見つからなかった」と言えば、また明日もいつも通りの私達の物語が始まる。
ムシュウは私達と一緒に狭間で存在して、私達は物語を見つけるために地平を廻って、それが終われば狭間に帰り、ムシュウとお風呂に入ってご飯を食べて、沢山の物語をおとぎ話のように三人で話して、仮初の夜を過ごす。
「――お帰りmademoiselle。今日君達が廻った物語は、どうだったか聞かせておくれ」
地平を繋ぐ鏡の扉を開くと、待ちわびていたようにムシュウが私達をぎゅうっと抱きしめてくれた。耳元で聴こえるムシュウの声は、お土産を待つ子供のように明るく弾んでいる。
私達は顔を見合わせて、
「ごめんなさいムシュウ・・・」
「今日もムシュウに相応しい物語は見つけられなかったわ・・・」
すると、ムシュウの顔は寂しげに曇る。それは一瞬だったけれど私はその表情を見てないはずの胸がずきんと痛んだ。
ごめんなさい。ごめんなさい。
「・・・そうか。Merci、オルタンス、ヴィオレット」
そんな哀しい顔をしないでムシュウ。
「それじゃあ、今日見てきた物語を聞かせておくれ」
「・・・ウィ、ムシュウ」
私はムシュウのために存在している狭間の人形。その偽者の命はいつかは消えてしまうことはわかってる。
だけど。だけど、どうか。
この偽りの《物語》が、少しでも長く続きますように。
(嘘を吐いているのは)(わたし)
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