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 旅人の横をガラガラと馬車が通りすぎ、もうもうたる土煙が舞い上がる。頭から脛の辺りまですっぽりと身体を覆い隠した薄汚いローブに、さらなる道中汚れが加わった。  旅人はフードに覆われた頭を巡らせる。辺りはすっかり西陽に彩られ、東の空は蒼暗い夜の風景に変わりつつあった事を確認したかのように。  一瞬、西陽がフードの中を照らした。見る者が居たならば、浅黒い肌に無精髭が生え、険しく形作られた目が一つだけ輝きを放っていた事に気付いただろう。だが、それを目にした者は居ない。  彼はゴツいザックを担ぎ直すと、目前にある街道沿いの宿場町に足を進めた。左脚をわずかに引き摺るようにして――  彼が町の大通りに入ると、早速あらゆる宿屋の客引きから声をかけられた。しかし、どこもあまり興味を引かないのか、通り過ぎてしまう。そのまま大通りから出る方向に進んで行きかかったが、急に旅人は立ち止まった。ふと、耳に誰かの声が――訴えかけるような声が、聞こえたような気がしたのだ。  声の主がどこにいるのか気になり、様々な客引きとその客でごった返す大通りを見回した。確かに聞こえたはずの声が――
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