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(木陰亭~、ご飯も美味しくてお部屋もきれいですよ~)
この声だ……彼は声が聞こえた方に目を向け、他の客引き達の間にその姿を見つけた。
声の主は、鮮やかな赤い髪を後ろでくくり、黄金色の目が少し気の強そうな印象を与えるがそれが可愛いらしくもある、十代半ばぐらいの少女だった。
「“木陰亭”~、料理も美味しくてお部屋もきれいですよ~。どうですか、お客さん? 料金も親切になってますよ」
今度ははっきりと耳に捉えることが出来た。少女は目の前にいた行商人に声をかけたが、その商人は一瞬興味を覚えたようだが別の宿に向かってしまった。残念そうに肩を落とす少女――
そんな少女を見ていた旅人は、今日の宿はあの娘の所にしよう。という考えが浮び上がった。旅人は懐から革で出来た萎みがちのサイフを取りだして中身を改めると、十分と踏んで少女に近寄った。
「君、宿に案内してくれないか?」
旅人が話しかけると、少女は驚いたように顔を上げ、未だフードを被ったままの旅人を見上げた。
「えっ、ウチに泊まるんですか?」
よっぽど嬉しかったのだろう、少女は見る者をハッとさせる笑みを満面に浮かべ、早口で宿への案内を始めた。
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