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微かに手が動き、縋るように私にのばされる。
ここまでしても意識があるばかりか、まだ動くのか。
これ以上関わる事に恐怖を感じ、私は店から飛び出した。
ただもうがむしゃらに人の間を駆け抜ける。
道行く人々が、何事かと視線を送ってくるが構わず走りつづけた。
息が上がり、足が自然と止まる。
そして、はっと思い出す。
そうだ。友達の香と待ち合わせをしていたんだ。
しかも、今日は空手の練習試合。
全てにおいて遅刻だ。
「もう、何なのよアイツは~」
私はただ愕然とし、見知らぬ茶髪の青年に恨み言を呟いた。
◇◇◇◇僕
「ヤッホー、鈴ちゃん。珍しく時間通りに来たじゃない」
後ろから声をかけてきた少女はそう言った。
誰だろう。親しげに話しかける彼女に、まったく覚えがない。
赤み架かった長髪は、腰に届かんばかりのストレート。
柔らかな笑みがよく似合う、可愛らしい顔立ち。
彼女を一言で表現するなら『凄い美人』。
「おーい、もしもし。鈴ちゃん、どうしたの? 風邪かな?」
気がつくと、その少女の顔がすぐ近くにあった。
「わっ、なっ」
慌てて飛び退く。心拍数が馬鹿みたいに跳ね上がっている。
「何やってるの?」
小首を傾げる少女は、不思議そうに僕を見つめている。
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