第二条 同名の交錯

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上から声がしたので、視線を上げた。 胸板しか見えない。 足りないので、更に角度を上げる。 やっと顔が見えた。 茶髪を逆立てた男性だった。 彼を一言で表現するなら『凄い不良』。 ええ! なんで私に絡んでくるの? パニックに陥りそうになった時、不良から意外な台詞が飛び出してきた。 「ゆっくり話がしたいから店に入ろうか」 そう言う彼の表情はとても穏やかだった。 「は、はい」 意外に優しい瞳に、私は吸い寄せられるように、後をついていく。 訳が分からず、ちょこちょこ歩いた先に、喫茶店があった。 当たり前のように入店していく彼に続き、私も店に入る。 そのまま奥の席に、向かい合う形で座る。 「お前、俺に言うことあるだろう」 突然、そんなことを切り出した。 ハッキリ言って、「はぁ?」という感じだ。 「あの~、どこかでお会いしましたか?」 私がおずおず尋ねると、彼の表情が一変した。 犯人を追い詰める刑事ような表情は引き締まり、どこか凛々しく見える。 「ほほ~う、小学校からの友人、『翼』くんを忘れましたか~」 小学校? こんなやつ居たっけ? 翼と名乗る人物を改めてみる。 鼻筋が通っていて、輪郭も整い、彫刻のようだ。 目は鋭いが、優しい光を宿している。 うん、こんな美男子、私の知る限り出会ったことがない。 「すみません。覚えていません」 申し訳なく頭を下げる。 顔を上げると更に表情を変えた翼がいた。 完全に元素である不良の顔つきになっている。 人を刺して当たり前のような悪人顔だ。 思わずすくみあがる。
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