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上から声がしたので、視線を上げた。
胸板しか見えない。
足りないので、更に角度を上げる。
やっと顔が見えた。
茶髪を逆立てた男性だった。
彼を一言で表現するなら『凄い不良』。
ええ! なんで私に絡んでくるの?
パニックに陥りそうになった時、不良から意外な台詞が飛び出してきた。
「ゆっくり話がしたいから店に入ろうか」
そう言う彼の表情はとても穏やかだった。
「は、はい」
意外に優しい瞳に、私は吸い寄せられるように、後をついていく。
訳が分からず、ちょこちょこ歩いた先に、喫茶店があった。
当たり前のように入店していく彼に続き、私も店に入る。
そのまま奥の席に、向かい合う形で座る。
「お前、俺に言うことあるだろう」
突然、そんなことを切り出した。
ハッキリ言って、「はぁ?」という感じだ。
「あの~、どこかでお会いしましたか?」
私がおずおず尋ねると、彼の表情が一変した。
犯人を追い詰める刑事ような表情は引き締まり、どこか凛々しく見える。
「ほほ~う、小学校からの友人、『翼』くんを忘れましたか~」
小学校? こんなやつ居たっけ?
翼と名乗る人物を改めてみる。
鼻筋が通っていて、輪郭も整い、彫刻のようだ。
目は鋭いが、優しい光を宿している。
うん、こんな美男子、私の知る限り出会ったことがない。
「すみません。覚えていません」
申し訳なく頭を下げる。
顔を上げると更に表情を変えた翼がいた。
完全に元素である不良の顔つきになっている。
人を刺して当たり前のような悪人顔だ。
思わずすくみあがる。
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