赤いサクラ

2/4
前へ
/29ページ
次へ
「桜の下には死体が埋まってるのかしら」 初春の風が生ぬるく、深夜の公園を舐めるように吹いていた。 何枚もの桜の花弁が、それに儚くさらわれていく。 「いきなり何を言い出すんだ」 ベンチに男女二人が座っていた。 公園には彼らしかいない。 女はベンチを軋ませながら細い足をゆらゆらとさせている。 男は胸元から薄っぺらい煙草とライターを取り出した。 パチンという小気味よい音と共に、火を点ける。 「去年はね、この桜、もっと白かったのよ」 男がふーと息を吐いた。 暗闇に浮かび上がる煙は、桜と似てどこか幻想的だ。 女の足の振動で、ベンチがきしきし声をあげた。 「何でこんなに綺麗に色づいたのかしら…?」 「俺が知るかよ」 男がけだるそうに、煙草を口にくわえた。 女は少し前屈みになる。 肩ほどしかない黒髪が流れ、薄いうなじが月光に晒される。 見下ろす月は中途半端に欠けている。  
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加