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「桜の下には死体が埋まってるのかしら」
初春の風が生ぬるく、深夜の公園を舐めるように吹いていた。
何枚もの桜の花弁が、それに儚くさらわれていく。
「いきなり何を言い出すんだ」
ベンチに男女二人が座っていた。
公園には彼らしかいない。
女はベンチを軋ませながら細い足をゆらゆらとさせている。
男は胸元から薄っぺらい煙草とライターを取り出した。
パチンという小気味よい音と共に、火を点ける。
「去年はね、この桜、もっと白かったのよ」
男がふーと息を吐いた。
暗闇に浮かび上がる煙は、桜と似てどこか幻想的だ。
女の足の振動で、ベンチがきしきし声をあげた。
「何でこんなに綺麗に色づいたのかしら…?」
「俺が知るかよ」
男がけだるそうに、煙草を口にくわえた。
女は少し前屈みになる。
肩ほどしかない黒髪が流れ、薄いうなじが月光に晒される。
見下ろす月は中途半端に欠けている。
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