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「お姉さんが、いるのよね」
一瞬だけ男の動きが停止する。
だがすぐに、「あぁいるさ」と彼女に返事をした。
女がくすりと笑みをこぼす。
唇は、赤い。
「丁度今頃だったかしら、いなくなったのは」
男が何も言わずこちらを見るのに、女はくすくすと笑いで返した。
ベンチが女の足の振動で更に鳴く。
「あなたによく似た栗色した髪の毛が綺麗だったわ」
「やめろ」
男は女を睨んだ。
女はその視線を真っ向から見返し、挑発するように笑い返す。
「何処に、行ったのかしらね?」
けたけたと笑う彼女の表情は、気味が悪い程に無邪気なもの。
ゆらゆら、ゆらゆら、揺れる足は簡単に折れそうなほど細い。
揺れる度、白く白く闇に浮かび上がった。
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