赤いサクラ

3/4
前へ
/29ページ
次へ
「お姉さんが、いるのよね」 一瞬だけ男の動きが停止する。 だがすぐに、「あぁいるさ」と彼女に返事をした。 女がくすりと笑みをこぼす。 唇は、赤い。 「丁度今頃だったかしら、いなくなったのは」 男が何も言わずこちらを見るのに、女はくすくすと笑いで返した。 ベンチが女の足の振動で更に鳴く。 「あなたによく似た栗色した髪の毛が綺麗だったわ」 「やめろ」 男は女を睨んだ。 女はその視線を真っ向から見返し、挑発するように笑い返す。 「何処に、行ったのかしらね?」 けたけたと笑う彼女の表情は、気味が悪い程に無邪気なもの。 ゆらゆら、ゆらゆら、揺れる足は簡単に折れそうなほど細い。 揺れる度、白く白く闇に浮かび上がった。  
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加