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「桃色のワンピース着ていたの
それがとても、欲しくなったわ
素敵な栗色の髪をしていたの
それがとても、欲しくなったわ
素敵な弟さんを持っていたの
それがとても、欲しくなったわ」
彼女の桃色のワンピースから覗く足が、ゆらりと視界で狂ったように踊る。
風が擦れて悲鳴をあげた。
ベンチに一人の男が座っていた。
吐く息は煙草の煙で白く染まっている。
目の前に立つ桃色の桜の木は、鮮やかな艶を放っていた。
「来年はもっと紅くなるんだろうな」
自嘲気味な笑みを残し、男は立ち上がった。
吸っていた煙草を足元に落とすと、土のへばりついた靴で静かにもみ消した。
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