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帰れば母さんが玄関で待っていた。
「柚ちゃんは?」
いつも一緒に帰ってくるのだから、俺の隣にいない柚を心配するのは当たり前だ。
「置いてった」
短いその言葉を言った時、とてつもない罪悪感に駆られた。
胸を締め付けられているような痛みが縛って、鼓動は痛みに悶えるように速かった。
暗い自分の部屋でうずくまって、柚を待っていた。
後悔と罪悪感と自分の哀れさ、疲れがドッと溢れて来たように突然の睡魔に襲われて意識を絶った。
そしたら、暗闇の水面を雫が波紋を作った。
ゆっくりと差し込むのは光だった。
突然駆り立てるのは柚の泣き顔だった。
目を覚ませば、泣いている柚が俺を覗き込むように見ていた。
頬に幾重と落ちる冷たい水。
俺の眠気を急激に覚ますぐらいそれは冷たかった。
「すまない……」
それは、強気な妹が、久しぶりに見せる弱さだった。
お互いに謝って許して、直ぐに笑顔になって、そこで罪悪感は消えた。
――――そして深夜。
俺はまた罪悪感に駆られた。
一人の少女を想うあまりに――……。
「――…………もう思い出すの辞めよっかな……」
なんか涙腺が膨らんできた。
俺は廊下に倒れる自分の体を起こして稽古場から出た。
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