ただそれは、小さい喜びだった

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『誰……ですか…?』 インターホンから弱々しい声が聞こえた。 疑いを持ちたくなるぐらい弱々しくて暗い声――。 けど、確かにその声の主は凪ちゃんだった。 「あっ――……俺…だけど……」 名前を出さなかったのは自分が一瞬躊躇いを覚えたせいだ。 馨ちゃんの暗い顔と言葉がふと浮かび上がってきて俺の喉を絞った。 躊躇いを覚えるぐらい苦しく――……。 ガチャ 「――――ッ!?」 俺は思考の海から一気に引き上げられた。 鍵の開く音は俺に一種の期待と恐怖を持たせた。 ゆっくりと開いていくドア――。 それに比例するように見えてくるのはベージュの服。 露わになるわ金に近くて金より綺麗な金糸。 「――春……斗…!」 ドアから顔を出した彼女は俺を見てその目を見開き驚く。 線の細かい端麗な容姿。 多少やつれているように見えるが、それは間違いなく矢崎 凪だった。 「あっ…………こんにちは、かな――――……!!?」 言葉の終わりに俺は後ろに倒れそうになった。 涙をボロボロと流しながら彼女は、凪ちゃんは俺に抱きついてきた。 まるで存在を確認するかのように――。強く。
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