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「苺はね、恋をすると赤くなるのよ。相手に見初められようとして綺麗でおいしくなるの」
これはいつだったか、家族で苺狩りに言った時の母のセリフだ。母は苺で手と口の周りを真っ赤にして、夢見る少女のような表情をしていた。
この当時まだ幼かった私は母の言っている意味がさっぱり分からなかったが、彼女は苺を人間に例えていたのだろうと今では思う。
母と父は大恋愛の末結婚して、今でも娘に呆れられるほどラブラブだ。
おはようのチューとか、いただきますのチューとか、ごちそうさまのチューとか、いってらっしゃいのチューとか、忘れ物を取りにきたのチューとか、もう一度いってきますのチューとか……。朝だけでもこんなにたくさんチューをする。帰って来た後のことまで挙げだすときりがない。
そして専業主婦である母は、父が出掛けている間もエアロビクスをしたり、手芸教室や料理教室に通ったりと女を磨く努力を怠らない。
母曰わく「ずっと父さんに見合う素敵な女性でいたいから❤」だそうだ……。まったく恥ずかしい。
そんな母の娘である私は、母とは真逆でまったく女の子らしいことに興味はない。
何の手入れもしていない黒髪は邪魔なのでいつも後ろで一本に縛っているし、見やすさ重視で一般的にダサいと言われるフレームの大きいメガネをかけている。スカートだって同級生の友達はみんな膝上10cmくらいには上げているのに、私のスカートは膝下10cmだ。
ニキビができても大して気にしないし、靴下に穴があいたらさすがに気になるが、靴下が落ちることはまったくもって気にならない。
そんな私だからもちろん眉毛なんて手入れしたこともないし、マニキュアどころか爪を磨いたことすらない。
ある日曜日の昼下がり、Gパンに何の飾り気もないパーカーを着た私はぼんやりと思った。
今の私は、母の言うところの白い苺だな、と。つまりまだまだ酸っぱくてまずいのだ。
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