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だからといって私は別に母の言うところの『赤い苺』になりたいとは思わなかった。女の子らしくする、オシャレをする、なんて面倒くさいしくだらないからだ。そんなことより大切なことが世の中には色々とあるはずだ。
しかし、そんな私にも変化は訪れた。
初めは小さく、しかし徐々に大きく、私は変化していくことになる。
一番初めの変化は、洗顔だ。今まで水で洗っていたのを、母が「ぬるま湯の方が汚れがとれやすいのよ」と言っていたのを思い出してぬるま湯に変えた。
次に、髪を結ぶ位置を少し高くした。
それから、靴下が落ちたら上げるようにした。
こうした本当に小さな変化たちが、次第に雪だるま式に大きくなっていくことになる。
しばらくして、私は洗顔フォームを使うようになった。
やがて洗顔の後に化粧水もするようになり、ついにはニキビの薬まで塗るようになった。
私は今までずっと一本に縛っていた髪をハーフアップにしてみた。
靴下が落ちないように、ソック○ッチを使うようになった。
気づけばスカートを膝上まで上げていた。
メガネもオシャレなフレームのものに変えた。
母に料理を教わった。
ここからの変化は本当に著しい。
私は、眉毛の手入れをするようになった。
母に爪磨きを借り、ついにはマニキュアまで借りた。
スタイルを良くするためにジョギングをはじめた。ニキビ予防のためチョコレートを食べるのをやめた。
ファッション雑誌を読み、かわいい服を買ってもらった。気づけばアクセサリーまでするようになっていた。
ある日曜日の昼下がり、花柄のワンピースにジーンズのジャケットを羽織った私はぼんやりと思った。
今の私は、母が言うところの赤い苺だな、と。
……つまり、まぁ……、私は恋をしたのだった。
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