たんぽぽ

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ある気持ちの良い日曜日の昼下がり、お母さんと子どもがお散歩をしていました。 トットットッと先に走る子どもの後ろを、お母さんはにこやかについて行きます。 そうしてしばらく進んでいると、子どもがいきなり立ち止まって地べたにストンと座り込んでしまいました。そしてきょとんとした声で 「おかあ、このふあふあなぁに?」 と聞きました。 やがて追いついたお母さんは、子どもの足元を見て答えます。 「それは、たんぽぽよ」 「えぇ?だってたんぽぽってきいろのかあいいお花でしょ?このふあふあはお花じゃないし色もしろいよ?」 「お花じゃなくっても、色が白くっても、このフワフワはたんぽぽなのよ」 「なんでなんで?たんぽぽさん、せいけいしゅじゅつしたの?」 お母さんはクスリと笑いました。 「違うのよ。たんぽぽさんは大人になるとこうなるの」 「ぼくのせがのびるみたいに?」 「そうよ」 「おかあのシワがふえるみたいに?」 お母さんはまたクスクスとおかしそうに笑いました。 「そうね。お母さんのシワが増えて、お父さんの髪の毛が減っていくようにね」 子どもはやっぱりきょとんとしてしばらくお母さんの瞳を見つめていましたが、やがて自分の足元に視線を戻して 「そおかぁ…」 と呟きました。 お母さんはにっこり笑って子どもの隣にしゃがみます。 「このフワフワの正体、教えてあげようか?」 イタズラっぽく笑うお母さんに、子どもはムッとした顔を作りました。 「やっぱりたんぽぽじゃないんじゃん!おかあのウソつき~」 「ううん、ウソじゃぁないわ。これは本当に本当のたんぽぽよ。でも、ただのたんぽぽじゃないの」 「どおいうこと?」 「この白いフワフワはね、たんぽぽの子どもなの。よく見ると小さなフワフワがたくさん集まってひとつの大きなフワフワになってるでしょ? いつか強い風が吹いたら、この小さなフワフワひとつひとつがバラバラになって飛んでいくの。それで、どこか遠くで根を張って、たんぽぽの花を咲かせるのよ」 お母さんの話を聞いている間、子どもはじっと黙ってたんぽぽを見つめていました。 「ふーすればたんぽぽの子どもたちは飛んでいくわよ。ほら、ふーしてごらん」 子どもはまだじっと黙ってたんぽぽを見つめています。 「こうやってやるのよ。ほら、ふー」
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