11人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
この春女子高生になったうちの趣味は、散歩だ。雨だろうが晴れだろうが、時間さえ許せば近くの公園に散歩に行く。ばばくさいとよく言われるが、まったくもってその通りだと自分でも思う。でも、好きなものは好きなのだから仕方ない。
キラキラと輝く葉っぱ、色とりどりに咲く花の香り、ひなたぼっこをする野良猫、楽しそうに笑う親子……そう言ったものを見ながらのんびり歩くのが、うちは大好きなのだ。ただ歩いて、いろいろなものを見ているだけで、胸がいっぱいになるのが、本当に本当に、大好きなのだ。
そんなわけで、うちは今日ものんびり散歩をしている。よく晴れた日曜日の昼下がりの公園は、家族連れなどで活気づいていた。
しばらく歩いていると、公園の中の小さな広場のようなところに、一羽のガチョウがいた。
まるで錆び付いたブランコのような鳴き声を張り上げている。
このガチョウは公園の名物らしく、うちはここに来る度にこいつに出会う。はじめてこのガチョウの鳴き声を聞いた時、うちは本気でブランコの音かと思っていたので、この音を出しているのが生きたガチョウだということに気づいた時は驚いたものだ。
今は聞き慣れたもので、うちは「やぁガチョウ~相変わらずブランコに似てるね」と話しかけて、彼(彼女?)に近づいていった。
うちはそうしてしばらくぼんやりとガチョウを見ていた。すると、いつの間にか隣に初老の女性がしゃがみこんで同じようにガチョウを見ていた。
うちらは何も言わずにぼんやりとガチョウを眺め続けた。ガチョウは人慣れしているのか、うちらのことなど気にもせずに毛づくろいをしている。
うちはガチョウって首が長いなぁと考えて、ふと、今隣の女性も同じことを考えているのではないかと思い当たった。
女性は何も言わずにただガチョウを見ていたし、うちもただガチョウを見ている。
まったく知らない人なのに、同じものを見て、もしかしたら同じことを考えているのかもしれない。そう思うと、うちは隣にしゃがみこんでいる初老の女性になんだか奇妙な親近感を覚えた。
もしかしたら、彼女もうちに対して同じように感じているのかもしれない。
しばらくして、女性は何も言わずにその場を立ち去った。うちと彼女は他人のままだった。
だが、とうちは思った。
うちと彼女は、今確かに同じ時間を過ごしていたのだ。
携帯でガチョウの写真を撮ろうとすると、レンズの部分をつつかれた。
最初のコメントを投稿しよう!