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「生まれてしまったのか、優子…」 「何て言い草するのよ、竜。貴方の子よ?」 薄暗い産屋。 現代のように、あるいは天界のように、立派な医療があるはずもない。 この時代の出産とは、命を削る事…。 それでも優子は、産んだ。 ずっと先の未来に、どんな運命があるかも知って尚。 子供の躯が、力に耐える事が出来るかもわからないまま。 未来の神の器の躯を、未来へちゃんと送る為に。 「ねぇ、少し優輝に似てない?」 当然だろう。 「当然だろ?お前の双子の姉なんだから」 当然だろう。 『優輝』は、俺の仲間で、親友で。お前の姉で、次の魂の持ち主で。俺とお前と、この子の子孫なんだから…。 「そうよね…」 クスクスと、優子は笑う。 「ねぇ、竜。名前考えた?」 「あ…」 「もう、しょうがないわねぇ」 名前は1番短い呪だって言ったでしょ? そう言って、優子はまた笑う。 普通、天使に子は産まれない。 同種間でも、決して。 でも、優子は「巫女」だから。 当代一の力の持ち主。 恐らく、この世で唯一、天使:神子の子を産める者。 優子は「特別」。 そしてこの子は、更に上をいく者。 「優子は、何か考えたのか?」 「もちろんよ」 開け放している戸から覗く夜空を見上げる。 「月の女神アルテミスに、唯一愛された男:オリオン」 この地にはまだ伝わっていない、遠い異国の神話。 これは優子が、「現代」で仕入れた知識だ。 「ギリシア神話が、どうにかしたのか?」 「この子の名前、月代にしようと思うの」 俺の掌に、漢字を書く。 「漢字だけなら、男神の名前だな」 そう言うと、優子はまた笑う。 女の子に、男っぽい名前をつけるのは、我が家の伝統かしら、と。 「由来は?」 「オリオンである貴方を愛した私の娘で、時代・時空を司る貴方の娘だから」 「そっか…」 娘の傍に座り、手を握る。 「ツキヨ…」 初めて、名前を呼んだ。 名前は1番短い「呪」。 お前の力を封印するよ。 お前は、「巫女」と「神子」の子だから。 強すぎる力は、お前を壊してしまう。 だから封印するよ。 お前が本当に、必要となるその時まで…。
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