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イクスは一時的に聴こえなくなった耳に、無視を決め込む。
今が機会。
イクスはリズベアの隙を見逃すことなく、体勢を整え右手の剣を固く握る。
「はぁぁぁ!」
イクスは開いたリズベアの脇腹に、渾身の力を込めて突きを放った。体重、バネ、魂。全ての力を総動員した、自身最大の一撃を。
瞬発力で加速する切っ先は、狙いを付けた場所へ迷いなく到達する。
「…………」
だが、インパクトの瞬間に微かに聞こえた、モフ、という柔らかい音。
「……え?」
ポカンという表現が良く合う表情。イクスは呆けた顔で“その”部分、切っ先が当たった場所を凝視する。
刺さらない。全力で突いたリズベアさんの脇腹はなぜか、どういうわけか無傷。
リズベアは当たった部分をむず痒そうに震わせる。
「嘘だろぉぉぉ!!」
イクスは今までにないぐらいの、とびっきりの驚きを声に出して叫んだ。
イクスには手応えを感じたいい一撃だと思われたのだが、リズベアの皮膚が硬いのか、それとも彼の力が弱かったのか、イクスの全力の突きはリズベアの肉体にダメージを与える事は出来なかった。
……これっぽっちも。
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