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「はっ、はっ、はっ……」
時刻は昼。
. . .
日の光が燦々と降り注ぐだろう、太陽が天頂に達して間もない昼。
であるのだが、今ここで空を見上げても、彼(か)の少年にまばゆい陽光は望めなかった。
ここは光の届かない薄暗い場所。木々が鬱蒼(うっそう)と生い茂る、深すぎる程深い森の中。
濃い緑の木葉(このは)が光を邪魔する天蓋なら、辺りの大木はそれを支える柱かなにか。
鼻に突くのは、春の緑の匂いに混ざり込む、確かな獣臭。
「はっ! くっ!」
足元には蛇のように蔓、蔓、蔓。とてもではないが、居心地良いとは言えない所。舞台としては最悪だが、少年は決してそれらが気色悪いとは思わなかった。
. . . . . . . . . . . . . .
今、それどころではないからだ。
ここに、汗を拭い疾走する者が一人。
一向に変わらない状況に、もういい加減にして欲しいと言わんばかりにうんざりした表情は、彼の今の心情を如実に表していた。
彼の名はイクス・レヴァスティン。
きめやかな金髪をつんつんと立たせた、中肉中背の少年。その若々しい血気のある白い顔に載るのは、蒼穹のように青く、しかしどうして水面の如く澄んだ両眼。
まだあどけなさ残る顔に微かな焦りを垣間見せながら、ひた走っている最中にある。
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