逃げろ!

2/22
3059人が本棚に入れています
本棚に追加
/250ページ
       △ 「はっ、はっ、はっ……」  時刻は昼。              . . .  日の光が燦々と降り注ぐだろう、太陽が天頂に達して間もない昼。  であるのだが、今ここで空を見上げても、彼(か)の少年にまばゆい陽光は望めなかった。  ここは光の届かない薄暗い場所。木々が鬱蒼(うっそう)と生い茂る、深すぎる程深い森の中。  濃い緑の木葉(このは)が光を邪魔する天蓋なら、辺りの大木はそれを支える柱かなにか。  鼻に突くのは、春の緑の匂いに混ざり込む、確かな獣臭。 「はっ! くっ!」  足元には蛇のように蔓、蔓、蔓。とてもではないが、居心地良いとは言えない所。舞台としては最悪だが、少年は決してそれらが気色悪いとは思わなかった。   . . . . . . . . . . . . . .  今、それどころではないからだ。  ここに、汗を拭い疾走する者が一人。  一向に変わらない状況に、もういい加減にして欲しいと言わんばかりにうんざりした表情は、彼の今の心情を如実に表していた。  彼の名はイクス・レヴァスティン。  きめやかな金髪をつんつんと立たせた、中肉中背の少年。その若々しい血気のある白い顔に載るのは、蒼穹のように青く、しかしどうして水面の如く澄んだ両眼。  まだあどけなさ残る顔に微かな焦りを垣間見せながら、ひた走っている最中にある。
/250ページ

最初のコメントを投稿しよう!